パラリンピックとアーツ スタディーグループ第9回会合

障がい者の舞台芸術表現・鑑賞に関する実態調査報告書はこちら

第9回 2017年2月23日

「障がい者の舞台芸術表現・鑑賞に関する実態調査報告会」

1. 当事者・福祉施設の報告
国際障害センター ビッグ・アイ 事業プロデューサー 鈴木京子

 障がい者個人と福祉施設に向けた調査結果より、鑑賞に関わる部分を中心に報告する。
 個人、福祉施設共に劇場・文化施設において受けたサポートの内容はほぼ共通しており、「座席・車椅子席等への案内、字幕や手話通訳」等が中心である。ただし団体の方が事前調整や現場で目立つ等の理由で認知されやすく、サポートを受けた率は個人の2倍近かった(個人:約3割、福祉施設:5割以上)。
 一方、80%以上の劇場・文化施設では「障がい者がどんなサポートが欲しいのかのニーズを知るための取り組み」を行っていない。サポートを受けたかったのに受けられなかったと回答した障がい者個人(24%)や福祉施設(10%)側との間でズレがあることがわかる。また、鑑賞経験のない立場からは「周りを気にせずに済む別室での鑑賞」のような情報保障以外の鑑賞支援を望む声も多かった。障がい種別と必要とされるサポート内容は単純に対応せず、個別のニーズは実に多様である。
 表現活動を行う当事者としての意識に関しては、個人・福祉施設共に余暇活動やリハビリの位置付けではなく、芸術表現の場と認識している数値が高く、今後の参考になった。
 文化施設からの公演情報発信の取り組みは障がい者個人に向けた場合では特に工夫が見られず、一般的な媒体を通じているのが実情である。福祉施設には組織として招待される機会があるなどのバリエーションが見られた。
 
 2.  実演団体の報告
日本財団パラリンピックサポートセンター パラリンピック研究会 上級研究員 佐藤宏美

 実演団体の表現活動の目的として「福祉」と「芸術」どちらを強く意識しているかを訊ねたところ「芸術」の方をより強く意識して表現活動をしていることがわかった。
 運営形態としては全体の4分の3が任意団体またはNPO法人。主たる活動地域は関東地方が44件中16件、九州地方と近畿地方が6件と、関東地方に集中が見られた。活動に携わる人数については、10人以下の団体が3分の2を占め、団体の規模が総じて小さい。予算面でも4分の1の団体は収支とも50万円以下と小規模である。
 過半数の団体が、複数の障がい種別を活動の対象としている。ジャンルで見ると、ダンス・舞踊が最多で、音楽、演劇と続く。ダンスと音楽には全ての障がい種別の人々が参加している。
 情報発信サイドである実演団体はSNSから口コミまで多彩な方法で発信しているが、受信サイドではアナログの手段が依然として優勢のようである。
 過半数の団体が、活動を継続していく上での最大の問題は予算の不足であるとし、次いで人材の不足・ノウハウの不足等が挙げられた。舞台芸術や福祉の専門性以上に、経営・運営に関する人材・ノウハウの不足が深刻である。
 表現活動の成果として参加者本人が得たものとしては、「達成感・充実感」が最多だった。社会へのインパクトとしては、「障がい者に関わる問題について社会の関心を集めることができた」、「家族など周囲の人々が新たな可能性を見出すことができた」、を過半数の実演団体が実感している。同時に芸術へのインパクトも強く感じられており、5割強が「既存の舞台芸術にない新しい表現方法を探ることができた」、3割強が「芸術そのものの価値や意味を問い直すことができた」と実感していることがわかった。
 
 3. 劇場の報告
 全国公立文化施設協会 理事・アドバイザー 間瀬勝一

 まず、補助犬に対する理解を調査した結果、ホール内に補助犬を同伴できない劇場・文化施設が16%近くあり驚愕した。全国公立文化施設協会としてもまだまだ力を入れていかないといけないと思う。 
 87%のホールや劇場では障がい者がスタッフとして勤めておらず、そうした施設の74%では障がい者のニーズを知る取り組みを実施していないことがわかった。
鑑賞者にどのような障がいをお持ちの方が多いかを訊くと、全ての芸術表現ジャンルで車椅子を使っている方との回答数が飛び抜けて大きい。車椅子以外の障がいをお持ちの場合は、劇場側に認識されにくいという現実があるのかもしれない。
 障がいのある人のための字幕音声ガイド等の鑑賞サポート付き公演を行う予定の有無を訊いたところ、84%は実績・予定共にないという回答で、障がい者の来訪に向けて劇場施設側から積極的なアクションが起こされていないことが読み取れる。多様な障がいに対してどういうサポートができるのか、ニーズをきちんと把握していくべきと考える。このデータその他をもとに職員の研修を充実させていくべきであろう。施設の長のみならず、全職員・受付・委託先の掃除係・警備係にも一緒に研修を受けて専門的に内容のわかるスタッフを育てていかないといけない。データからは危機的な感じを受けているが、アクション次第で数字が向上するであろうと前向きに考え、お手伝いしていきたいと思っている。

4.総括と提言                 
愛知大学文学部 准教授 吉野さつき氏

 今回の調査結果から、前から薄々わかっていたこと、推測していたことが数値的に明らかになったと思う。日本の文化芸術振興基本法においては「日本中どんな居住地域にあっても文化芸術を享受しその創造に参加する権利がどんな人にも認められているはず」なのだが、実際にはそうはなっていない。しかも障害者差別解消法が施行され他の法制も整備されている現在、出来ていないことを少しずつでも向上させていくべきである。それは別に2020年があるからという話ではなく、本来なされるべきことがなされていないのであるから、向上させていく必要があると言いたい。
 調査結果から見ると障がいのある方にとってはまず鑑賞の機会そのものが非常に限られている。劇場にアクセスしづらく、情報すら手に届きにくいのが現状である。まずは入り口を整備した上で、実演団体と劇場とがパートナーシップを組むなどして機会を作っていってほしい。何もかも完璧にやろうとしなくていいので、できることから一歩ずつ今から始めていくことが大事だと思う。
 提言の中、人材育成に関しては「劇場・文化施設と福祉関連施設職員の研修や交流を含めた交換留学制度を作っていってはどうでしょうか」というようなことを書かせていただいた。
 情報の収集・整備・発信に関しては、人材育成や運営の場、助成金に関する情報など、「現場で活動している皆さんが知りたい情報が集約されている場」がこれから必要になってくると思う。
 福祉と芸術の分野をまたいだ様々な協働が可能となるネットワークの構築を提言したい。

IMG_4610.JPG参加者とディスカッションする講師