「(」と一致するもの

第42回ワークショップ

2023年8月23日
テーマ:「パラスポーツを通じた他者理解と共生社会」
講師:田中彰吾氏(東海大学 文明研究所 所長)
指定討論者:河合純一氏(パラリンピアン 水泳)

講演(田中):
当事者が現場で経験していることをありのままに記述し、その構造を理解しようとする現象学の立場から「パラスポーツ」「他者理解」「共生社会」について考える。

現象学的な「他者理解」に関連して、二つの考え方を紹介しておきたい。一つ目は、「身体化された心」である。人間には思考・感情・記憶・想像など様々な心の過程があるが、それらの心の過程は身体が動き回り、環境に働きかけるという具体的な行為の中に埋め込まれた状態で初めて実現する、という考え方である。生きた身体から切り離された心の過程は存在しない。

二つ目は現象学者メルロ=ポンティの「間身体性」という理論である。他人の身体で起きていることを知覚すると、その人の身体で生じている行為が自身の身体でも再現される(例:教室内におけるあくびの伝播)ように、自他の身体間には循環的な関係が潜在するという考え方である。メルロ=ポンティは、人間が他者の心の中で起きていることを理解する際、最も根底で起きているプロセスが身体的なものなのではないのかという問題提起をし、「間身体性」が他者理解につながる回路であること、また、言葉以外のシグナルによっても他者と同期・同調するような関係から他者理解が可能であることを示唆した。人間は、同期・同調の関係がうまくできる相手については「相性が良い」と感じるし、うまく噛み合わない場合は「相手と上手くコミュニケーションが取れない」と感じながら独特の「あいだ」を形成しているのである。

これらの考え方を踏まえると、他者理解の過程では、お互いの身体的相互作用、特に非言語的相互作用がうまく噛み合うためのやりとりが密に生じており、これが言語的な理解を支えていることがわかる。他者を理解できない経験があったとしても、それもまた、「あいだ」での他者理解をさらに進展させるきっかけなのである。

これらの理論とパラスポーツの関連を考える。報告者がパラスポーツを画面越しに観戦した当初、障がいにともなうもどかしい感覚を自身の身体におぼえたが、観戦を続けるうちに、選手の身体経験が自身の身体にも乗り移ってくるかのような経験が生じた。これは、「間身体性」の観点からすると、他者の身体とその障がいを間接的に告げてくれている経験だと考えられる。すなわち、他者の身体についてもどかしさを感じることは、他者の障がいがどのようなものかを共感的に感じる際の重要な手掛かりになり、障がいを理解するうえで重要なきっかけとなるのである。また、パラスポーツの特徴の一つである競技アシスタントの存在は、アシスタントとプレーヤーとの間で濃密な「あいだ」ができあがっていくプロセスであると捉えることができる。これは、「間身体性」が他者の心を理解する最初の入口であるのみならず、両者の循環関係が深まり、二人が共生していくための「あいだ」の生成にもかかわっていると思われる。

人々の「共生」を実質化するための方策として、「間身体性」を機能させるためにお互いの身体を知覚し、共感できる生活環境を整えることが重要であり、ユニバーサルデザインに基づく環境の整備は、パラスポーツの施設を作ること以前に検討しなくてはならない。また、トップダウンの施策のみならず、ボトムアップに構築されているローカルな共生の場を吸い上げるための社会的なシステムの整備が必要になると考えられる。


【討論より】

河合:
「あいだ」「間」などに関連し、自分が講演する際に、最後に必ず入れる二枚のスライドがある。一つは音楽家のマーラーの「大切なことは楽譜の音符と音符の間にあるんですよ」というフレーズ。二つ目はフランスの作家サン=テグジュペリの「本当に大切なものは目に見えない」というフレーズ。このように信頼や波長みたいなものを理解しようとする気持ちを人間が失ってしまったら、社会は成り立つのだろうかという問題・課題を提示していただいたように感じる。他者理解という点では、障がい者という「人(個人モデル)」の理解なのか、そもそも社会モデルとしての「障がい」に対する理解なのかによっても違いがあると感じた。
 オリンピック・パラリンピックの一体化が進み、長年オリンピックの指導をしていた指導者がパラリンピックの指導に関わるケースが出てきているが、障がいに対する理解が十分でないという声もある。今後インクルージョン・共生を進めていくためには、ニュートラルな思考をすることが一つのポイントになるのではないか。

田中:
現象学では身体について二通りの捉え方をしている。一つは物理的な次元で捉え、生活環境から引き離す捉え方。もう一つは、実際にその人が生きるという感覚と共に動いている身体であることを意味する「生きられた身体」という捉え方である。「生きられた身体」同士が有機的な共生関係になれば、それまで理解できなかったレベルまで相手のことを理解できる可能性が広がる。
 障がいについて、医学的に分類し、理解することは大事だが、それでは「生きられた身体」から離れてしまい、ローカルな共生の場を創出できない危険性もある。社会全体の雰囲気が、トップダウンで人間の「間身体性」に影響を与えている側面があるものの、システムの整備により社会の雰囲気を変えていくことも「間身体性」がうまく機能するうえで非常に重要である。また、現場を知る人と政策立案のできる人が上手く調整できるポイントを見つけることが求められる。

パラリンピック研究会紀要第19号

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パラリンピック研究会紀要vol.19を公開しました。
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パラリンピック研究会紀要第19号

 

~第19号目次~

 

寄稿論文

・障害者スポーツに関する言葉の認知度に関する研究(PDF)
  ─2014年~2021年度の推移に注目して─                    
                          

 藤 田 紀 昭  1
                                 (英文要旨) 26


・東京2020大会を支えたボランティアに関する研究 その2(PDF)
  ─大会・都市ボランティアの特徴から─                       
                                   

二 宮 雅 也 29
                               (英文要旨) 78


研究論文
 
・パラリンピック・ムーブメントと「開発と平和のためのスポーツ(SDP)」(PDF)
                          

昇 亜 美 子 81
                                                                                                  (英文要旨) 104


・国立教員養成系大学におけるパラリンピック・パラスポーツ教育の実施状況に関する研究(PDF)

永 松 陽 明 107
(英文要旨) 125


・パラアスリートとアクティビズムに関する動向と今後の研究展望(PDF)
  

遠 藤 華 英 127
(英文要旨) 138


研究ノート

・パラスポーツにおける用具の意味の転換とパラドックス(PDF)

小 倉 和 夫 141
(英文要旨) 149

『日本財団パラスポーツサポートセンターパラリンピック研究会紀要』18号掲載論文仮訳

・パラリンピック競技大会の未来(PDF)

デイビット・レッグ 151
 

・レガシーの課題と機会:リオ2016パラリンピック大会と東京2020パラリンピック大会を比較して(PDF)
                        

リュシエナ・キラコシアン 167


・執筆者(PDF) 

191

過去に開催されたワークショップ

過去に開催されたワークショップ:

第41回(2022年4月12日)
テーマ:「北京2022パラリンピック競技大会日本選手団報告会」
報告者:河合純一氏(日本代表選手団団長)、大日方邦子氏(アルペンスキーチームリーダー)
モデレーター:渡正氏(順天堂大学准教授)
討議、指定討論者:桜間裕子氏(日本代表選手団副団長)

第40回(2022年1月26日)
テーマ:「パラリンピックに関する認知と関心」インターネット調査報告
報告者:小堀真(青山学院大学地球社会共生学部准教授)、遠藤華英(パラリンピック研究会研究員)、中村真博(パラリンピック研究会研究員)

第39回(2021年11月29日)
テーマ:「東京2020大会を支えたボランティアの様相」
報告者:二宮雅也氏(文教大学人間科学部准教授、日本財団ボランティアサポートセンター参与、日本スポーツボランティアネットワーク理事)

第38回(2021年11月12日)
テーマ:「東京2020パラリンピック競技大会日本選手団報告会」
報告者:河合純一氏(日本代表選手団団長、日本パラリンピック委員会(JPC)委員長)、櫻井誠一氏(日本代表選手団副団長、JPC強化委員会副委員長)
モデレーター:藤田紀昭氏(日本福祉大学教授)

第37回(2021年4月27日)
テーマ:「パラリンピック教育の現状と課題:東京都と千葉県の小学校・中学校・特別支援学校を対象とした調査結果より」
報告者:渡正氏(順天堂大学スポーツ健康科学部准教授)、中島裕子(日本財団パラリンピックサポートセンターパラリンピック研究会主任研究員)

第36回(2020年1月14日)
テーマ:パラリンピックとスポーツ倫理能力主義を中心に考える
講演者:熊谷晋一郎氏(東京大学先端科学技術研究センター・東京大学バリアフリー支援室)

第35回(2019年10月3日)
テーマ:スポーツにおけるカナダの成功
講演者:Todd Nicholson(カナダOwn The Podium会長)

第34回(2019年8月29日)
テーマ:パラリンピック教育の効果と課題「I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル )」が伝えるパラリンピックの価値とその普及
講演者:マセソン美季(I'mPOSSIBLE日本版事務局・日本財団パラリンピックサポートセンター、推進戦略部プロジェクトマネージャー) 
石塚智弘氏(東久留米市立南町小学校教諭)
モデレーター:渡正氏(順天堂大学スポーツ健康科学部准教授)

第33回(2019年6月18日)
テーマ:知的障がい者のスポーツ参加の意義 −パラリンピック、スペシャルオリンピックス、INASが有するそれぞれの役割−
講師:ジャン・バーンズ教授(英国カンタベリー・クライスト・チャーチ大学)

第32回(2019年2月19日)
テーマ:「ジャカルタから東京へ~アジアパラ競技大会報告及び2020東京パラリンピック競技大会に向けての提言」
講演者:ラジャ・サプタ・オクトハリ氏 (インドネシアアジアパラ競技大会組織委員会会長)
大前千代子氏(アジアパラ競技大会 日本代表選手団団長)
モデレーター:望月敏夫氏(日本障がい者スポーツ協会評議員、日本オリンピック・アカデミー理事)

第31回(2018年10月25日)
テーマ:「インターネットとソーシャルメディアにより拡大するパラリンピック−インスピレーション、変革、そして『史上最高の』東京大会−」
講師:ジル・ルクレール氏(英国コベントリー大学客員研究員)

第30回(2018年7月31日)
テーマ:「パラリンピックと放送に関する研究」
司会:藤田紀昭氏(日本福祉大学)
コメンテーター:小淵和也氏(笹川スポーツ財団)
調査報告:中山健二郎(日本財団パラリンピックサポートセンターパラリンピック研究会)

第29回(2018年4月12日)
テーマ:「平昌パラリンピック大会報告および2020年東京大会に向けての提言」
講師:大日方邦子氏、荒井秀樹氏、佐野慎輔氏(モデレーター)

第28回(2018年2月20日)
テーマ「パラリンピックとアクセシビリティ」
講師:英国アクセス・オール・エリアズ主席コンサルタント マーク・トッド氏
カナダマーニー・ピータース社社長、車椅子バスケットボール金メダリスト マーニー・ピータース氏

第27回(2017年12月1日)
テーマ「2020、2024、2028へと繋がる日本発メッセージ 〜技術とスポーツ創造を中心として〜」
講師:東京大学先端科学技術研究センター教授、JST ERATO稲見自在化身体プロジェクト研究総括、一般社団法人超人スポーツ協会共同代表 稲見昌彦氏

第26回(2017年10月25日)
テーマ「スポーツ界の転倒予防-フェアプレイ精神と共生の思想を守り育む-」
講師:一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構理事長 武藤芳照氏

第25回(2017年9月5日)
テーマ「ロシア問題を通して、アンチ・ドーピング活動の役割と意義を考える」
講師:公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構専務理事 浅川伸氏

第24回(2017年8月9日)
テーマ「2020 Paralympic Games: From Rio to Tokyo」
講師:駐日ブラジル大使館 教育部担当アタッシェ リアンドロ・ナポリターノ氏

第23回(2017年2月23日)
テーマ「インクルーシブスポーツの社会的意義-その理論と実践」

第22回(2016年12月6日)
テーマ「イギリスにおけるインクルーシブスポーツの取り組みと実践~2012年ロンドンパラリンピック競技大会における戦略とレガシー」

第21回(2016年10月18日)
テーマ「リオパラリンピック大会報告および2020年大会に向けての課題と抱負」

第20回(2016年7月28日)
テーマ「イギリスとオーストラリアにおける障がい者スポーツ競技団体の現状と今後の課題」

第19回(2016年5月26日)
テーマ「リオデジャネイロ・パラリンピック大会とブラジルにおける障害者政策」

第18回ワークショップ(2016年3月24日)
テーマ「企業による障害者スポーツ支援に関する共同調査〜インクルーシブな社会の実現を促す企業活動〜」

第17回(2016年1月8日)
テーマ「ドイツにおけるパラリンピック・ムーブメントとオリンピック」

第16回(2015年12月17日)
「障害者陸上競技における強化と育成〜ガイドコーチの視点を含めて〜」

第15回(2015年11月5日)
テーマ「パラリンピック報道とパラリンピックレガシー」

第14回(2015年10月6日)
テーマ「ロンドンパラリンピック大会を振り返って」

第13回(2015年8月24日)
テーマ「回顧、そして期待:東京1964-2020、パラリンピックレガシー研究」

第12回(2015年7月23日)
テーマ「パラリンピックの最前線-長野から5大会のメダリストに学ぶ」

第11回(2015年6月19日)
テーマ「障害のある人にとっての競技場のアクセシビリティ--観客として、競技者として--」

第10回(2015年5月28日)
テーマ「企業の社会貢献活動と2020年に向けた取り組み~人々が人間性を十分に発揮する豊かな社会へ~」

第9回(2015年4月21日)
テーマ「パラスポーツにおける心理サポート」

第8回(2015年3月26日)
テーマ「カナダにおけるパラリンピックのレガシー」

第7回(2015年3月5日)
テーマ「パラリンピックに於ける医学的支援」

第6回(2015年2月12日)
テーマ「血のかよった義足で挑むパラリンピック」

第5回(都合により延期)

第4回(2014年12月11日)
テーマ「情報アクセシビリティに関する現状の課題と、パラリンピックに向けた展開」

第3回(2014年11月20日)
テーマ「一般社会でのパラリンピックに関する認知と関心」調査概要報告

第2回(2014年10月2日)
テーマ「障害者支援に厚い伝統と実績を持つ総合商社による、雇用およびスポーツ活動支援の哲学と実践」

第1回(2014年9月4日)
テーマ「ロンドンおよびソチ・パラリンピックの放送とその反響」


























過去に開催された開催シンポジウム

過去に開催されたシンポジウム:

日本財団パラスポーツサポートセンター・日本福祉大学共催シンポジウム~東京2020パラリンピック競技大会のレガシー~(報告書)
日時:2022年1月12日
場所:オンライン開催

日本財団パラリンピックサポートセンター・立教大学ウエルネス研究所 立教大学東京オリンピック・パラリンピックプロジェクト共催シンポジウム~地域におけるパラスポーツ振興―パラリンピックムーブメントとの連動~(報告書)
日時:2019年10月1日
場所:立教大学(池袋キャンパス) 太刀川記念館3階カンファレンスルーム

日本財団パラリンピックサポートセンター・日本福祉大学共催シンポジウム~障がい者スポーツ振興におけるパラドクス 東京2020パラリンピック競技大会の成功を目指して~(報告書)
日時:2019年5月17日
場所:日本財団ビル2階 大会議室

日本財団パラリンピックサポートセンターJST ERATO稲見自在化身体プロジェクト共催シンポジウム~パラスポーツとともに歩む先端技術~(報告書)
日時:2018年11月24日
場所:日本財団ビル2階 大会議室

日本財団パラリンピックサポートセンター・筑波大学共催シンポジウム~パラリンピック教育がもたらす共生社会-障がい者理解を目指して~(報告書)
日時:2018年9月2日
場所:日本財団ビル2階 大会議室

日本財団パラリンピックサポートセンター・日本福祉大学共催シンポジウム~パラリンピックとジェンダー~(報告書)
日時:2018年5月26日
場所:日本財団ビル2階 大会議室

日本財団パラリンピックサポートセンター・上智大学ソフィア オリンピック・パラリンピックプロジェクト共催シンポジウム「障がい者スポーツと国際協力の課題‐東南アジア地域を中心に」(報告書)
日時:2017年10月20日
場所:上智大学 国際会議場(2号館17階)

国際シンポジウム「共に生きるスポーツとアーツの可能性」(報告書)
日時:2017年9月29日
場所:東京藝術大学上野キャンパス 第6ホール(音楽学部第4号館)

日本福祉大学・日本財団パラリンピックサポートセンター共催シンポジウム~パラリンピックと共生社会~(報告書)
日時:2017年5月27日
場所:東海市芸術劇場 大ホール

日本財団パラリンピックサポートセンター・早稲田大学オリンピック・パラリンピック事業推進室共催シンポジウム~オリンピックとパラリンピックの連携~(報告書)
日時:2017年3月5日
場所:早稲田大学 小野梓記念講堂

国際シンポジウム「アジアにおける障がい者スポーツ」(報告書)
日時:2016年7月16日
場所:岩見沢市民会館・文化センター「まなみーる」

国際シンポジウム「スポーツを通じた多文化共生の未来に向けて」(報告書)
日時:2016年1月9日
場所:青山学院大学 総研ビル12階大会議室 

国際シンポジウム「パラリンピック・ムーブメント-レガシーを通して考える2020年東京大会のあり方」(報告書)
日時:2015年12月19日
場所:筑波大学 東京キャンパス文京校舎134教室

日韓パラリンピック・セミナー2018平昌・2020東京大会に向けて(報告書)
日時:2015年1月30日
場所:早稲田大学 小野梓記念講堂

国際シンポジウム「国際交流とスポーツ外交」
日時:2014年12月19日
場所:青山学院大学 総研ビル12階大会議室 










パラリンピック研究会紀要18号

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パラリンピック研究会紀要Vol.18

~第18号目次~

寄稿論文

  • パラリンピック競技大会の未来(PDF)

デイビット・レッグ  1
(和文要旨) 17

  • レガシーの課題と機会:リオ2016パラリンピック大会と東京2020パラリンピック大会を比較して(PDF)

リュシエナ・キラコシアン 19
(和文要旨) 44
 

  • 東京2020大会を支えたボランティアに関する研究 その1 ─大会ボランティアの成果と満足度に着目して─(PDF)

二 宮 雅 也 47
(英文要旨) 72

研究論文

  • ウクライナにおける障がい者スポーツの発展(PDF)

昇 亜 美 子 75
(英文要旨) 94

  • スポーツ用義足メーカーにおける特許の重要性(PDF)

永 松 陽 明 97
(英文要旨)108

  • 東京2020パラリンピック競技大会後における国内外一般社会でのパラリンピックに関する認知と関心調査報告 パラリンピック自国開催を経た社会的影響の認知と東京2020パラリンピック期間中の行動との関連:3カ国(イギリス・ブラジル・日本)の傾向から(PDF)

 遠 藤 華 英  111
(英文要旨)131
 

  • パラスポーツが共生意識に及ぼす影響に関する一考察(2)─2019年と2022年の調査結果の比較を通して─(PDF)


中 村 真 博 135
(英文要旨)153

 研究ノート

  • 傷痍軍人のスポーツ大会とスポーツ活動の意義(PDF)

小 倉 和 夫 155
(英文趣旨)176

『日本財団パラスポーツサポートセンターパラリンピック研究会紀要』17号掲載論文仮訳

  • 東京2020パラリンピック競技大会の多様な側面について(PDF)

グドルン・ドルテッパー  177

  • 東京1964から東京2020へ,パリ2024の視点から見たパラリンピック競技大会:違いの尊重から技術進歩による達成へ(PDF)

シルヴァン・フェレズ  197

  • 東京2020パラリンピック競技大会に関する考察(PDF)

デイビット・レッグ  219

  • 東京2020パラリンピック競技大会のレガシー,障がいと日本──ムズカシイデスネ?(PDF)

イアン・ブリテン  241

報告

  • ロンドン−リオ−東京:パラリンピック開会式のレガシーとは(PDF)

 栗 栖 良 依  263
(英文要旨)283

  • 第41回パラリンピック研究会ワークショップ(PDF)

285

303

第41回ワークショップ

2022年4月12日
テーマ:「北京2022パラリンピック競技大会日本選手団報告会
報告者:河合純一氏(日本代表選手団団長)、大日方邦子氏(アルペンスキーチームリーダー)
モデレーター:渡正氏(順天堂大学准教授)
討議、指定討論者:桜間裕子氏(日本代表選手団副団長)

詳細はこちら

パラリンピック研究会紀要17号

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パラリンピック研究会紀要Vol.17

~第17号目次~

寄稿論文

  • 東京2020パラリンピック競技大会の多様な側面について(PDF)

グドルン・ドルテッパー 1
(和文要旨)20

  • 東京1964から東京2020へ,パリ2024の視点から見たパラリンピック競技大会:違いの尊重から技術進歩による達成へ(PDF)

シルヴァン・フェレズ 23
(和文要旨)45

  • 東京2020パラリンピック競技大会に関する考察(PDF)

デイビット・レッグ 47
(和文要旨) 70

  • 東京2020パラリンピック競技大会のレガシー,障がいと日本──ムズカシイデスネ?(PDF)

イアン・ブリテン 71
(和文要旨) 93

研究論文

  • オリンピック,パラリンピックとジェンダー:女性選手の参加問題と共生社会の理念(PDF)

小 倉 和 夫 95
(英訳) 115

  • Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動とオリンピック・パラリンピック大会におけるアスリートの抗議行動(PDF)

昇 亜 美 子 137
(英文要旨) 177

  • 米国特許データを用いたスポーツ用義足技術の影響分析(PDF)

永 松 陽 明 179
(英文要旨) 190

研究ノート

  • 東京2020大会に見る成果と問題点(PDF)

小 倉 和 夫 193
(英訳) 197

報告

  • 第38回パラリンピック研究会ワークショップ(PDF)

203

付録

  • 新型コロナウイルス感染症拡大が東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会および関係機関等に与えた影響(時系列記録)(PDF)

222

執筆者(PDF)

253

シンポジウム概要

  • テーマ:東京2020パラリンピック競技大会のレガシー
  • 日 時:2022年1月12日(水)14:00-16:30
  • 会 場:オンライン開催
  • 主 催:公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター、日本福祉大学

    報告書はこちら

第40回ワークショップ

2022年1月26日
テーマ:「パラリンピックに関する認知と関心」インターネット調査報告
報告者:小堀真(青山学院大学地球社会共生学部准教授)、遠藤華英(パラリンピック研究会研究員)、中村真博(パラリンピック研究会研究員) 

 パラリンピック研究会では、「国内外におけるパラリンピックに関する認知と関心」をテーマとした調査を、2014年と2017年に実施してきた。3回目として、東京大会後の2021年10月に、青山学院大学地球社会共生学部の小堀真研究室と共同で7カ国(日本、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、韓国、ブラジル)を対象に調査を行った。本ワークショップにおいては、日本に関する調査結果(20歳~69歳の5,000人の男女を対象)の一部を報告する。

 (中村)はじめに全体像を概観する。回答者のほとんどが、スポーツに関する記事を読む、観戦する等何らかの形で普段からスポーツに触れていた。「パラリンピック」の内容を知っていると回答した人の割合は、2014年は77.1%、2017年は75.2%で、今回の82.8%が最も高かった。しかしながら、84.2%の人は東京大会以前にパラリンピックに関する経験(直接・間接観戦、パラスポーツ体験イベントへの参加等)をしたことがないことも明らかとなった。

 東京大会の評価を行う際に、コロナ禍が影響した人は半数近くに上り、大会前は32.6%の人が開催に反対し、24.9%が賛成だったが、大会後は、56.7%の人が「障害のある人にとって開催されてよかった」と評価した。

 大会期間中の観戦状況は、「テレビでパラリンピックのニュースを視聴した人」が67.8%、「テレビで競技を観戦した人」が48.2%となり、観戦率が高かった上位3競技は、「車いすバスケットボール(23.5%)」「車いすテニス(23.1%)」「水泳(22.1%)」だった。ただし、観戦・視聴したと回答した人に最も印象に残ったのは「開会式(33.4%)」だった。また、45.5%の人は競技(開閉会式を含む)を全く観戦していなかったことも分かった。

 今後のパラ大会に関しては、2割前後の人がテレビやインターネット等で間接観戦をしたいと回答した。

 次に、各設問と基本属性の三つ(性別・年代・障がいの有無)とのクロス集計結果を報告する。性別による傾向に着目すると、スポーツ消費行動は男性の方が高いが、「パラリンピック」の認知度や東京パラ大会の観戦率や評価は女性の方が高かった。

 年代別の傾向に着目すると、相対的に、「パラリンピック」の認知度や東京パラ大会の観戦率や評価は50代、60代が高く、今後、「パラスポーツ体験会への参加」「パラスポーツに関連したボランティア活動」「障がいに関する学習」などを希望する割合は20代が高かった。

 障がいの有無に着目すると、障がい当事者および家族・友人に障がい当事者がいる方が、パラリンピックのことをより知っており、今後のパラリンピックに関連した行動意図も強い傾向にあった。ただし、障がい当事者の場合と、家族・友人に障がい当事者がいる場合とでは東京パラ大会に対する評価に多少異なる傾向がみられた。具体的には、「(東京パラ大会の開催は)障がいのある人にとってよかった」という項目について、障がい当事者の方が評価が低い結果となった。

中村真博研究員01.png

中村真博研究員

 (遠藤)設問同士をかけたクロス集計の結果からは、次の四つの傾向が明らかになった。①大会の評価をする際にコロナ禍が影響した人は、大会開催に対し否定的な評価を下す。②日常的にスポーツに深くかかわっている人は、東京パラ大会期間中も競技の観戦や情報収集などを積極的に行っている。③日常的にスポーツに深く関わっている人また、実際に東京パラ大会を観戦した人は、東京パラ大会に対してポジティブな評価をする。④東京大会を高く評価した人は、今後のパラリンピックやパラスポーツに関する行動意図も強い。

 これらの結果から、日常的にスポーツ、パラスポーツに関わりを持ち、また実際にパラリンピックを観戦した人は、大会自体および大会を通じた社会的影響にポジティブな評価をする好循環が生まれる可能性が認められた。その反面、日常的にスポーツに触れる機会がない人、あるいは関心がない人は、パラリンピック自体を観戦しないことから、パラリンピックに対し肯定的な評価をあまりしない傾向にある。今後は、スポーツ・パラスポーツという枠に留まらず、例えば昨今議論されているSDGsや持続可能な開発のための教育など、パラリンピックやパラスポーツに関する経験や関心が少ない層を巻き込むきっかけとして、様々な概念と共に情報を発信するのも一案かと考える。

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遠藤華英研究員

 (小堀)東京パラ大会のレガシーを検証するにあたり、大会への賛否と共生社会に対する考え方の視点から分析を試みた。開催自体に反対でも、大会への評価が高かった層は共生社会への受容度も高い傾向にあり、パラ大会への評価と共生社会への受容度に強い関連があることが分かった。また、大会開催に対して中立の立場を維持する層は共生社会への受容度が低い傾向もみられた。これらの因果関係を特定するためにはより精緻な分析が必要となるが、少なくともパラ大会への評価が、障がい者だけではなく、性的マイノリティ、人種の異なる人をはじめとする様々な人々との共生社会への受容度と正の関係にあることが確認できた。

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小堀真准教授

 (遠藤・中村)自由回答記述の共起ネットワーク分析からは、新型コロナウイルス感染症の拡大が大会開催への反応を生んでいたこと、日本人選手の活躍を目にした人に感動や共感を呼び起こしたこと、初めて大会を目にした人に驚きを与えたことなどが窺えた。性別に着目すると、パラリンピックに対して男性は「競技スポーツ」としての印象、女性は「障がいのある人が頑張るスポーツ」という福祉的印象を持った傾向が示唆された。

 

 ワークショップ参加者からは、東京大会のレガシーを検証するためにはこうした調査が継続的に行われることが重要であるとの意見も寄せられた。

 東京2020パラリンピック競技大会後における国内外一般社会でのパラリンピックに関する認知と関心 第3回調査結果報告