2018年2月20日
テーマ:「パラリンピックとアクセシビリティ」
講師:マーク・トッド氏(アクセス・オール・エリアズ主席コンサルタント、英国)
マーニー・ピータース氏(マーニー・ピータース社社長、車椅子バスケットボール金メダリスト、カナダ)
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて、関連施設建設をはじめとするハード面と、運営体制構築などのソフト面の準備が進められている。その両面において、世界から集まる観客に対するアクセシビリティの保証が充分に検討される必要があり、特に障がい者が円滑にパラリンピック観戦・参加する際には、細心の配慮が求められる。
それらのアクセシビリティを確保するためには、誰もが同じ体験ができる「公平性」、高齢者や障がい者にとって不便さを感じさせない「尊厳性」、快適に施設などが利用できる「機能性」が重要な視点となる。東京大会でのハード面の整備においては、ロンドン、ソチ、リオデジャネイロでの取組み・実践を参考にする必要がある。また、ソフト面では、チケット販売におけるわかりやすいWebデザインなどの取組も重要である。一方、パラリンピアンに対しては、施設の使いやすさ、移動しやすさ、災害時の対応などの観点でのアクセシビリティを考慮しなければならない。
今後、東京2020大会の準備を進めていくにあたり、エレベーター設置などをはじめとしたさまざまな取組みが個別に対応されていくであろう。利用者が利用しにくい状況に陥らないためにも、大会全体を通してシステマティックに連携された、誰もが使いやすいハード・ソフト両面のアクセシビリティ実現が求められる。
参加者の質問に答える講師
2017年12月1日
テーマ:「2020、2024、2028へと繋がる日本発メッセージ 〜技術とスポーツ創造を中心として〜」
講師:稲見昌彦氏(東京大学先端科学技術研究センター教授、JST ERATO稲見自在化身体プロジェクト研究総括、一般社団法人超人スポーツ協会共同代表)
現代社会は「Society 5.0」や「超スマート社会」と呼ばれ、コンピューターやスマートフォンが欠かせない社会となっている。情報社会のさらなる進化は、もはや止めることのできない流れだが、その中で我々人間自体のあり方を考えることが必要となる。
人間の感覚や器用さなどを拡張する「人間拡張」という技術は今まさに生まれたばかりではあるが、将来様々な場面で使用され得る可能性を持つ。人間の能力を拡張しようという考えは古くから存在するが、その際にテクノロジーを使用することで、新たな発見に繋がるであろう。「人間拡張」の技術は、物事を便利にすることで人間を支える一方、我々の世の中に対する見方を変化させる可能性も併せ持つ。「人間拡張」によって身体そのものを変化させるだけではなく、我々の脳がどのように自分の身体を認識しているかという身体性をも編集し得る。すなわち、テクノロジーによって超人に変身することで、その人間の精神も変わり得るだろう。
さらには、テクノロジーによる変身型のコミュニケーションというものが生まれる可能性もある。コミュニケーションをとる相手の立場になってみることで、言葉で聞いても分からなかったことの体験が可能となり、相互理解への効果が期待できる。
2020年東京大会では、日本の伝統を世界に見せることも大切だが、来世紀では当たり前となることを作り出すことも一つのレガシーではないだろうか。
現在、スポーツとの関わり方がわからない人たちが、何らかのきっかけでスポーツに関わる機会が増えれば、スポーツに対する見方も変化するだろう。伝統を守り続けることも大切ではあるが、未来から見て伝統となるものを現在において創造することも求められている。
コンピューターの世界は多様性を支援する可能性を持っている。現実世界では活躍できない人々が、コンピューター上の世界で活躍する例もある。テクノロジーが身体的な多様性や価値の多様性を支えていくことが、日本産業の価値に繋がるのではないだろうか。それをスポーツによって実現して行くことが「超人スポーツ」の理念でもある。

2017年10月25日
「スポーツ界の転倒予防-フェアプレイ精神と共生の思想を守り育む-」
講師:一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構理事長 武藤芳照氏
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、スポーツが持つ価値に対して社会からの期待がより一層高まりつつある。中でも、健康的で活力のある社会形成のためにスポーツが果たす役割は大きく、これは日本が抱える少子高齢化問題とも深く関連してくる。
高齢者が寝たきり、要介護、そして死亡に至る事態を招来する原因の一つとして転倒がある。転倒骨折を防ぐことは、超高齢社会を支えることに繋がり、その予防策としてスポーツ・運動は重要な鍵となっている。
スポーツは、国民の健康を守り社会を明るくする存在であるとしてその価値が認められている一方、残念ながらスポーツ界には様々な不祥事、違法行為、コンプライアンスに関わる問題等が発生していることも事実である。
そもそもスポーツの原点は「遊ぶ」ことにある。子どもにとって、スポーツは遊びながら経験するものであった。しかし現代社会においては、本来の遊びとしての意味が衰退し、「競闘」という意味が優位に立っているといえよう。このような意味変容により、スポーツが勝利至上主義に陥ることを引き起こし、様々な場面での歪みを生じさせていると考えられる。ドーピング、間違ったトレーニングによる事故、部活動における体罰等は、スポーツに歪みが生じた顕著な事例である。特に、成長段階にある子どもたちに痛みを我慢することを強要し、トレーニングの量で成果を図る風潮は改善されなければならない。
スポーツは「薬」と同様であると考え、質と量を守る大切さを、指導者だけではなく子どもたち自身も理解する教育が求められる。正しい体の理(ことわり)を知るための「身体教育」は、国際舞台で活躍するアスリートのみならず、広く国民に広めなければならない基本的な教育であろう。

日本財団パラリンピックサポートセンター・上智大学ソフィア オリンピック・パラリンピックプロジェクト共催シンポジウム「障がい者スポーツと国際協力の課題‐東南アジア地域を中心に」を開催しました。
近年、障がい者スポーツに対する支援の重要性が国内外で認識されつつある。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック大会を契機として、日本が官民を挙げて途上国の障がい者スポーツに対する支援を実施することは、日本の援助政策における障がい者支援の一つの柱の確立という長期的なレガシーを残すことにつながるであろう。
本シンポジウムでは,特に日本と密接な関係を持ち,日本からの支援の期待も大きいASEAN諸国の障がい者スポーツの発展の実態とニーズの把握を通じて,途上国の障がい者スポーツ支援に対する認識を共有し、今後の支援のあり方について議論する。
開催概要
■日時 2017年10月20日(金) 15時30分~18時30分
■会場 国際会議場(上智大学2号館17階)〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町7−1
■言語 日本語、英語(日英同時通訳)
■定員 200名
■参加費 無料
■主催 公益社団法人日本財団パラリンピックサポートセンター
■共催 上智大学ソフィア オリンピック・パラリンピック プロジェクト
■後援 公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会
The Japan Times
スポーツ・フォー・トゥモロー認定事業
■プログラム詳細 こちらから
報告書を刊行しました。
2017年9月5日
「ロシア問題を通して、アンチ・ドーピング活動の役割と意義を考える」
講師:公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構専務理事 浅川伸氏
スポーツ界におけるアンチ・ドーピングを考える上で、ロシアのドーピング問題は非常に重大な出来事であるといえる。なかでも、リオデジャネイロ大会へのロシア選手団の参加を巡り、国際オリンピック委員会(以下、IOC)と国際パラリンピック委員会(以下、IPC)が異なる裁定を下したことで、改めてドーピング問題に関する規則、及び制裁賦課構造の複雑性が露呈した。 IPCは、「パラリンピックスポーツの公正性・高潔性(integrity)を担保することが重要である」という一貫した姿勢を示し、ロシアのパラリンピック参加資格を停止している。
すべての人々が納得できる形でロシアのドーピング問題を解決するには、ロシア国内の競技団体、ロシア政府、そしてIOC、IPC、関係する国際競技団体らが問題の本質に向き合うことが求められる。IPCはReinstatement criteriaを設け、ロシアパラリンピック委員会(RPC)のアンチ・ドーピング体制整備に向けた取組みを支援している。もう一度パラリンピックにロシア選手が堂々と参加するためにどのような改善が図られるのか、今後の動向が注目される。
ドーピングは、オリンピック・パラリンピック大会の価値を毀損する大きなリスクとして考えてよい。たった1名のドーピング違反が、大会のイメージを変容させてしまうのである。それゆえ、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を控える私たちも改めてアンチ・ドーピング活動の在り方や意義を考えなければならない。これまで日本人選手が築いてきたクリーンなイメージに甘んじることなく、国外選手も含めて大会中に発生しうるドーピング違反を未然に防ぎ、かつ不正を見逃さない体制を準備しなければならない。
アンチ・ドーピングは、公正な競技環境を担保するだけではなく、スポーツの内在的価値を守る活動である。スポーツは公共財であり、社会的価値があるものとして人々から評価されている環境があってこそ、スポーツを通じた社会振興が可能となる。オリンピック・パラリンピックを契機として日本社会の発展を目指すには、このスポーツ本来の姿・チカラを守り、そして一人ひとりのアスリートがスポーツの価値に向き合うためのアンチ・ドーピング活動を推進しなければならない。

日本財団パラリンピックサポートセンターは、東京藝術大学COI拠点とベルリン日独センターとの共催で以下のシンポジウムを開催しました。
国際シンポジウム「共に生きるスポーツとアーツの可能性」
開催概要
■日時 2017年9月29日(金) 13時30分~17時30分
■会場 東京藝術大学上野キャンパス 第6ホール(音楽学部第4号館)
東京都台東区上野公園12-8
■言語 日本語、英語、日本手話 (日英同時通訳および手話通訳付き)
■定員 200名
■参加費 無料
■主催 日本財団パラリンピックサポートセンター、東京藝術大学COI拠点、ベルリン日独センター
■協力 ナント市国際会議センター「シテ・デ・コングレ」、一般社団法人アーツ・イノヴェーション・プロジェクト(AIP)
■後援 スポーツ庁、文化庁、台東区、厚生労働省
■プログラム詳細 ちらし
報告書を刊行しました。
2017年8月9日
「2020 Paralympic Games: From Rio to Tokyo」
講師:駐日ブラジル大使館 教育部担当アタッシェ リアンドロ・ナポリターノ氏
南半球で初めて開催されたリオデジャネイロ・パラリンピック大会では、160のチームから4,333人の選手が参加し、220の世界記録と432のパラリンピック記録が生まれ、約25,000人のボランティアが活躍した。有形のレガシーとしては、可動式建築物、電車路線網の拡充、ブラジルパラリンピックセンターの設立、財政面でのパートナーシップの確立などが挙げられる。無形のレガシーとしては、インクルージョンの新しいモデル、教育プログラム(TRANSFORMA)の普及がある。
ブラジル独立記念日と重なった開会式では、「ハートにはリミットがない、誰にもハートがある」をテーマに、パラスポーツの原点、ダンス・音楽・スポーツ・水上スポーツに対するブラジルの情熱が伝えられた。閉会式では、フィリップ・クレイブンIPC会長から、リオ市民とブラジル国民によるパラリンピックムーブメントへの貢献を讃えてパラリンピック・オーダー(勲章)が贈られ、IPC旗は次期開催都市の小池知事へと渡された。
リオ大会終了以降、日伯両国にて写真展示会や文化イベント等が継続的に行われ、ブラジルから日本への文化の懸け橋となっている。クレーブン会長が残した言葉「素晴らしいカリオカ(リオ市民)。あなた方は今大会を温かく受け入れ、選手たちを心の中へと導いた。パラリンピックを皆さん自身の大会、人々の大会とし、われわれは皆さんと過ごした時間をいつまでも慈しむであろう」と述べた。
東京は2度目のオリンピック・パラリンピック大会を迎える。リオ市民のように、東京都民も両手を広げて世界からやってくる人々と文化を迎え入れてほしい。日本はリオの経験を超え、世界に対して、エネルギーに満ちた素晴らしい環境と、活力のある調和を示すことと確信している。

日本財団パラリンピックサポートセンターは、日本福祉大学・日本福祉大学付属高等学校との共催で、以下のシンポジウムを開催しました。
開催概要
■開催日時:2017年5月27日(土)13時20分~16時30分
■会場:東海市芸術劇場 大ホール(愛知県東海市大田町下浜田137番地3階(ユウナル東海内))
■講演テーマ:パラリンピックと共生社会
■参加費:入場無料
■主催:日本福祉大学・日本福祉大学付属高等学校、公益財団法人日本財団パラリンピックサポートセンター
■後援:愛知県、愛知県教育委員会、美浜町、半田市、東海市、武豊町教育委員会、南知多町教育委員会、美浜町教育委員会、半田市教育委員会、東海市教育委員会、中日新聞社、(社福)愛知県社会福祉協議会、愛知県障害者スポーツ指導者協議会、名古屋市障害者スポーツ指導者協議会
■協力:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
報告書を刊行しました。
パラリンピック研究会紀要vol.07を公開しました。
以下のリンクからダウンロードできます。
~第7号目次~
研究論文
- オリンピックとパラリンピックの「結合」についての一試論(PDF)
小倉 和夫 1
(英文要旨) 18
- フィリピンにおける障がい者スポーツをめぐる現状(PDF)
昇 亜美子 19
(英文要旨) 28
- リオデジャネイロ・パラリンピック大会に関する新聞報道の傾向分析と一考察(PDF)
遠藤 華英 31
(英文要旨) 39
小林 尚平 41
(英文要旨) 50
53
第23回ワークショップ 2017年2月23日
「インクルーシブスポーツの社会的意義-その理論と実践」
近年、パラリンピックムーブメントが盛り上がることによって、健常者、障がい者を問わず、誰もがスポーツに参加できる機会を持つという公平性が、スポーツにおいても求めらるようになっている。公平性に加えて、インクルージョン(包括)も重要になってきており、障がい者や女性、マイノリティーが社会参画のできる、生活しやすい街になるよう、継続的に考え続ける社会づくりをしていく必要がある。
こういった公平性、インクルージョンを確保するために、地域社会の拠点として、大学をはじめとした「学校」の果たすべき役割は大きい。例えば、英国ウースター大学において講義の一環で「障がい者スポーツ学」を学んだ学生は、障がい者への理解を深め、関連資格を修得し、地域に出て実際に中高生を教えるという経験を積むことができる。さらに、この講義には学生のみならず、地域の小中高校の教員、大学の教員が参加することも可能であり、2012年のロンドン大会を機に、多くの人が受講するようになった。このような教育活動を継続することにより、多くの人に障がい者スポーツを体験してもらい、大学から地域に向け、教育の輪、障がいへの理解の輪を広げ、その循環を作っていくことができる。
パラリンピックムーブメントを考えるにあたり、各国がメダル数を増やすことも重要だが、その前に、まずその国の障がい者に対する社会の「意識を変える」必要があり、それは様々な他者と対話し続けることによって達成されるものであろう。
参加者とディスカッションする講師