国際シンポジウム 国際交流とスポーツ外交

2014年12月19日(金)、国際シンポジウム「国際交流とスポーツ外交」を青山学院大学にて開催いたしました。2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにあたり、スポーツがいかに人を育て、社会や国家の発展に貢献しているかを検討し、また、スポーツを通した国際交流・文化外交-「スポーツ外交」について論じました。

青山大学国際シンポジウム登壇者集合写真.JPG

写真:セッション登壇者による集合写真

 セッション1「国家・社会の発展とスポーツ外交」

アンドレ・コヘーア・デ・ラーゴ氏(駐日ブラジル大使)

「2014年ワールドカップと2016年リオデジャネイロ・オリンピックに期待したもの、されるもの」

2014年のFIFAワールドカップでは、環境に配慮したインフラを提案するなど、ブラジルがサッカーだけの国ではないことを世界に示した。2016年のリオ五輪開催により、リオ旧市街および低開発地域の街並みや交通網の整備などの、長期的な開発計画を進めている。スポーツ外交は、国のイメージを広めることに役立ち、スポーツの持つソフトパワーが他国の人々をひきつけ、その国の生活様式の魅力を伝え、政治的・文化的に大きな力となる。

金雲龍氏(元韓国オリンピック委員会副会長)

「ソウルオリンピック・パラリンピックとピョンチャンオリンピック・パラリンピックにおけるスポーツ外交」

スポーツ外交は政治に大きな力を及ぼす。1988年のソウル五輪では、南北朝鮮の統一チーム結成は叶わなかったが、ソ連と中国を始めとする社会主義圏の参加を得ることができ、国交樹立の契機となった。東京は、財政能力やインフラの面でも有利な環境を持っており、2020東京五輪は、外交にも役立つ機会になるだろう。

池井優氏(慶応義塾大学名誉教授)

「近代日本とスポーツ交流―オリンピックと野球を中心に」

明治以降、外来スポーツが導入されるなか、野球は広く浸透し、外交と親善の手段として機能するようになった。1964年の東京五輪は、戦後復興のシンボルとして、独立回復と国連加盟にまさる効果を持ち、OECD加盟に必要な信頼を獲得するのにつながった。2020東京五輪は、エコ五輪としての発信、文化活動推進、日本経済活性化等の機会として期待される。

討議

韓国の経済発展を促進し国民に自信を生んだソウル五輪、持続可能な五輪を目指すリオ五輪、多極化の中に置かれる五輪について、韓国、ブラジル、日本の立場からそれぞれのコメントがなされた。

 

セッション2「スポーツが育てる人と社会」

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写真:第2セッションの様子

 

有森裕子氏(スペシャルオリンピックス日本代表、元マラソンランナー)

「よろこびを力に-わたしの社会活動」

湾岸戦争の最中に行われたマラソン大会において、スポーツは「平和な戦い」を示すことができるのではないかと考えた。バルセロナとアトランタでメダルを受賞したことが、自ら社会的な活動を行っていく契機となった。カンボジアでの親善マラソン大会参加を皮切りに、スポーツを通した国際活動に深く関わり、NPO法人の設立に至った。人々を変え、また自分自身の意識も高め続けてくれるのが、スポーツの持つ力である。

写真 講演をする有森裕子さん.JPG写真:スペシャルオリンピックス日本代表 有森裕子氏

 梁世勲氏(元在ノルウェー韓国大使)

「スポーツ外交と国際交流-韓国の事例」

韓国での五輪開催は、それまで国と国民が悩んできた悲しみと弱みを克服する原動力になった。五輪を成功に導くためには、安全の確保が第一条件となる。ソウル大会では東西両陣営の参加が実現し、その後、韓国は共産国家と次々国交樹立に成功した。五輪を通して、韓国は世界全体を舞台とする国際交流ができる国になった。政治的対立を緩和する無言の力を持つことはスポーツの大きな魅力である。東京五輪が世界平和と人類福祉を具現する機会になることを心より願う。

小川郷太郎氏(全日本柔道連盟国際関係特別顧問)

「国際社会における柔道の役割」

柔道はいまや国際的スポーツである。国際平和や友好親善の場でも有効な手段として活用されており、世界の子供たちに柔道を通して交流の場を与えるNPO法人も存在する。日本の柔道の技術レベルは世界一だが、柔道人口は減少している。徳育・知育・体育といった面に注目しての青少年への普及が必要と考える。国際的な発信力を強化することで、柔道による国際交流も促進するだろう。メディアには、バランスの良い報道を願う。

田口亜希氏(アテネ、北京、ロンドンパラリンピック 射撃日本代表)

「パラリンピックの意義」

後天的に障がいを持った後に射撃を始め、スポーツを通して喜びを見出している。今の日本では、2割程度の人々がバリアフリーを必要としている。スポーツ面の充実だけではなく、障害者がどこへでもアクセスできる環境の整備が望まれる。多機能施設がなぜ必要なのかを一般社会が知ることにより、「おもてなし」の実現が可能となるだろう。パラリンピックのバリューである、「勇気」「強い意志」「インスピレーション」「平等」を感じてほしい。

写真 青山大学国際シンポジウム田口亜希さん.JPG写真:アテネ、北京、ロンドンパラリンピック 射撃日本代表 田口亜希氏

討議

参加することに意義があるのか、或いは、競技性を追求すべきなのかについての問いに対し、オリンピアンとパラリンピアンから、五輪大会は、選手が自分の能力を最大限に生かす場であり、当事者がどのように考えるかが大事であるとのコメントがなされた。

 

セッション3 総合討論

アスリートのキャリアパス、オリンピックとパラリンピックの在り方、五輪大会と平和、柔道の国際化、日本社会におけるスポーツの価値、スポーツが社会にもたらす貢献などについて、質疑応答が交わされた。

写真 青山大学国際シンポジウム小倉代表.JPG写真:日本財団パラリンピック研究会代表 小倉和夫

写真 青山大学国際シンポジウム土山實男さん.JPG写真:青山学院大学教授、同副学長 土山實男氏