第8回 ワークショップ

第8回 2015年3月26日

「カナダにおけるパラリンピックのレガシー」

会場の様子.JPG写真:会場の様子

レガシー研究はまだ始まって日の浅いテーマであるため、まだ定義自体にばらつきがある。そのため異なる大会を同一条件下で比較するには研究面でも評価測定面でも困難が生じているということをまずは指摘しておきたい。重要なのは、2015年現在の東京のように大会が控えているときはどうしてもレガシーのプラス面を強調しがちであるが、マイナス面もきちんと理解しておくことである。大会開催によって魔法のようにプラスのレガシーが手に入ると考えがちだが、そのような考えは間違いである。

オリンピック・パラリンピックのような大会を催す際には「サーカスよりパンを」というスローガンが必ず提起される。このような批判を抑えるためにもレガシーは重要である。しかしパラリンピックのレガシー研究はほとんどなく、あったとしてもケーススタディにとどまっている。この蓄積の少なさは今後も問題となるだろう。

David Legg 教授.JPG写真:David Legg 教授

1998年カルガリー大会では、1.財政面、2.思い出、3.施設面、4.人材面でのレガシーが残っている。またこの大会以降カナダの大会成績は上昇し、2010年バンクーバー大会でのメダル獲得数は1位となったことも、カルガリー大会のレガシーであると考える。

レガシーに着目するのは最近の潮流ではあるが、1976年トロント身体障害者オリンピアードにおいて既にレガシーは意識されていた。この大会では様々なレガシーを残したが、特筆すべきことは2010年バンクーバー大会招致に向けてレガシー推進のための組織が招致決定前の1998年に設置されたこと、オリンピック大会報告書にパラリンピックの評価指標が含まれたことである。このような大会開催を通じて普段は縦割りである組織の連携・統合が進むことも重要である。カナダでは1990年代中頃からこれを進めてきた。

レガシーについての質疑応答.JPG写真:レガシーについて質疑応答するLegg教授

大会を開催し、期待した全てのことがレガシーとなるとは限らないが、逆に予期していなかったことがレガシーとなる場合もある。いずれにせよ障害者の視点を含んだ大会を開催することは、様々な組織・人々を一つにすることができるチャンスである。また、レガシーを語るのは運営側ではなく、東京と日本の社会である。市民の支持が得られなければそれらを管理することはできない。将来のレガシーについてグラスルーツの意見を集約する必要があるのではないか。