第25回ワークショップ
2017年9月5日
「ロシア問題を通して、アンチ・ドーピング活動の役割と意義を考える」
講師:公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構専務理事 浅川伸氏
スポーツ界におけるアンチ・ドーピングを考える上で、ロシアのドーピング問題は非常に重大な出来事であるといえる。なかでも、リオデジャネイロ大会へのロシア選手団の参加を巡り、国際オリンピック委員会(以下、IOC)と国際パラリンピック委員会(以下、IPC)が異なる裁定を下したことで、改めてドーピング問題に関する規則、及び制裁賦課構造の複雑性が露呈した。 IPCは、「パラリンピックスポーツの公正性・高潔性(integrity)を担保することが重要である」という一貫した姿勢を示し、ロシアのパラリンピック参加資格を停止している。
すべての人々が納得できる形でロシアのドーピング問題を解決するには、ロシア国内の競技団体、ロシア政府、そしてIOC、IPC、関係する国際競技団体らが問題の本質に向き合うことが求められる。IPCはReinstatement criteriaを設け、ロシアパラリンピック委員会(RPC)のアンチ・ドーピング体制整備に向けた取組みを支援している。もう一度パラリンピックにロシア選手が堂々と参加するためにどのような改善が図られるのか、今後の動向が注目される。
ドーピングは、オリンピック・パラリンピック大会の価値を毀損する大きなリスクとして考えてよい。たった1名のドーピング違反が、大会のイメージを変容させてしまうのである。それゆえ、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を控える私たちも改めてアンチ・ドーピング活動の在り方や意義を考えなければならない。これまで日本人選手が築いてきたクリーンなイメージに甘んじることなく、国外選手も含めて大会中に発生しうるドーピング違反を未然に防ぎ、かつ不正を見逃さない体制を準備しなければならない。
アンチ・ドーピングは、公正な競技環境を担保するだけではなく、スポーツの内在的価値を守る活動である。スポーツは公共財であり、社会的価値があるものとして人々から評価されている環境があってこそ、スポーツを通じた社会振興が可能となる。オリンピック・パラリンピックを契機として日本社会の発展を目指すには、このスポーツ本来の姿・チカラを守り、そして一人ひとりのアスリートがスポーツの価値に向き合うためのアンチ・ドーピング活動を推進しなければならない。