第34回ワークショップ

2019年8月29日
テーマ:パラリンピック教育の効果と課題「I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル )」が伝えるパラリンピックの価値とその普及
講演者:マセソン美季(I'mPOSSIBLE日本版事務局・日本財団パラリンピックサポートセンター、推進戦略部プロジェクトマネージャー) 
石塚智弘氏(東久留米市立南町小学校教諭)
モデレーター:渡正氏(順天堂大学スポーツ健康科学部准教授)

 ロンドン2012パラリンピック競技大会の成功の秘訣は、多くの家族連れが会場に足を運んだことにあった。ロンドン大会の開催が決定した時点では、大会チケットの購入希望者はごくわずかに過ぎなかったが、最終的にチケットは完売し、売り上げの75%を占めた家族連れが連日大会を大いに盛り上げた。
 イギリスパラリンピック委員会の報告 によると、オリンピックとパラリンピックの価値を題材とした教育教材である「Get Set」の普及により、子どもたちの3分の2以上の障がいに対する認識が変わり、その結果、子どもたちが家族に働きかけ試合を直接観戦する人が増えた。またその価値が認められた「Get Set」は、ロンドン大会後も教育プログラムとして使い続けられている。
 パラリンピックの意義は、そのムーブメントを推進することにより社会を変革し、誰もがお互いを認め合って活躍できる共生社会の実現を目指すことである。パラリンピック教育は、障がいのあるなしに関わらず誰にでも可能性があり、障がいのある人たちに対する認識や態度を変え、多様性への理解を深め、個性を尊重し合える関係性づくりの重要性を気づかせることを目標としている。
 パラサポでは、アギトス財団が開発したIPC公認のパラリンピック教材「I'mPOSSIBLE」の日本版を、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会 、ベネッセこども基金とともに共同開発した。現場にいる教員たちの声を基に、教員にとって使いやすくわかりやすい教材となることを念頭に開発し、教材研究に膨大な時間を割かなくても授業ができるように設計しており、2019年には小学生版第三弾、中学校・高校生版第二弾を全国の3万6千校に無償で配布した。
 「I'mPOSSIBLE」を活用することで、児童・生徒の興味・関心を引き出し、知識の習得、認識の変容、行動の変化が見られるようになった。パラリンピック大会に多くの障がい者アスリートが参加できるように考えられた「工夫」や「発想の転換」を学ぶことで、児童・生徒が困難な場面に遭遇した際に「I'mPOSSIBLE」から得た知識を活用して問題を解決する力が身に付くようになったという報告もなされた。
 2020年度から施行される新学習指導要領に、初めて「パラリンピック教育」と「共生社会」の文言が記載されることもあり、パラリンピックを一過性のイベントとして終わらせるのではなく、教育現場の中で継続的な取り組みがなされ、子供たちの興味関心・疑問から授業が展開されることを期待する。レガシーとは遺産であり、遺産とはバトンを繋ぎたいと思う人によって次に渡されるものである。その遺産とはまさに教育であり、共生社会の実現に向けて教育面から挑んでいきたい。

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