第39回ワークショップ

2021年11月29日
テーマ:「東京2020大会を支えたボランティアの様相」
報告者:二宮雅也氏(文教大学人間科学部准教授、日本財団ボランティアサポートセンター参与、日本スポーツボランティアネットワーク理事)

 2017年に設立された日本財団ボランティアサポートセンター(以下「ボラサポ」)は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、ボランティア育成のサポートを行ってきた。

 ボランティアの募集に先立ち、どのようなコンセプトで、どれくらいの人数を集め、どのように大会に関わってもらうか協議を重ね,大会準備を進めてきた.する一連の準備過程において,最も印象に残ったのはボランティアが研修の際に使用するテキストの作成である。

 東京2020大会のビジョンである「多様性と調和」は、大会に直接関わるボランティアにとっても重要なコンセプトであった。そのため、ボランティアが「異文化理解」「性の多様性」等をきちんと理解した上で具体的な行動や環境的配慮を行えることを目指し、テキスト内容の検討を重ねた。また、障がいのあるボランティアの参加や、障がいのある観客が来場した際の具体的なサポート方法については、障がい当事者にも意見をもらい、配慮すべき点を洗い出してテキストに盛り込んだ。
東京2020大会は新型コロナウイルス感染症拡大により無観客開催となったが、この決定は大会ボランティアの活動内容にも大きな影響を及ぼした。観客の案内・誘導や体調不良者対応も主たる業務内容に含まれていたが、無観客開催が決定以降、各会場でのボランティアの配置を見直さざるを得なくなった。予定されたボランティア活動を行えなかった参加者も多数存在したが、そうした中でもボランティア自身が主体的に行動し、大会を盛り上げる沢山の工夫をしていたのが印象的であった。このような制限のある環境下でも楽しい空間をデザインできるような創造性を持つボランティアが生まれたことは大会レガシーの一つといえる。

 ボラサポは、大会組織委員会が運営主体である「大会ボランティア」および関係自治体が運営する「都市ボランティア」を対象に大会前後でアンケート調査を行った。その結果、総じてボランティアに参加しなければ出会えなかった人々との交流や非日常的な経験に大きな価値を感じていることがわかった。ボラサポは、同調査結果を基に「1.満足感が得られるボランティア活動内容の確立」「2.ボランティアの一元化による一体的な運営」「3.誰でも参加できるボランティア環境の創出」「4.若者(学生も含む)へのサポート」「5.ボランティア活動における感染症対策の徹底」「6.ボランティア活動機会の創出」という六つの提言を行った。

 東京2020大会では「大会ボランティア」と「都市ボランティア」を分ける体制が採用されたが、今回の調査では都市ボランティアと大会ボランティアの満足度に高低が生じた。こうした課題を解決するためにも、今後は大会を支える一つのボランティアとして一元化して運営していくことが求められるであろう。また、若い世代が積極的にボランティアに参加できる環境を整備するためにも、ボランティアへの交通費支給額の見直しも含め、学生など若い世代の金銭的負担軽減も重要だといえる。さらに、満足度を高めるためには、心身に過度な負担を与える専門的な業務はできる限りボランティア活動とはせず、一人一人が充実した活動を行える業務内容の選定も検討していく必要がある。

 東京2020大会の経験を踏まえ、引き続き性別や年代、障がいの有無に関係なくボランティアに参加できる環境づくりを推進していきたい。