第40回ワークショップ

2022年1月26日
テーマ:「パラリンピックに関する認知と関心」インターネット調査報告
報告者:小堀真(青山学院大学地球社会共生学部准教授)、遠藤華英(パラリンピック研究会研究員)、中村真博(パラリンピック研究会研究員) 

 パラリンピック研究会では、「国内外におけるパラリンピックに関する認知と関心」をテーマとした調査を、2014年と2017年に実施してきた。3回目として、東京大会後の2021年10月に、青山学院大学地球社会共生学部の小堀真研究室と共同で7カ国(日本、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、韓国、ブラジル)を対象に調査を行った。本ワークショップにおいては、日本に関する調査結果(20歳~69歳の5,000人の男女を対象)の一部を報告する。

 (中村)はじめに全体像を概観する。回答者のほとんどが、スポーツに関する記事を読む、観戦する等何らかの形で普段からスポーツに触れていた。「パラリンピック」の内容を知っていると回答した人の割合は、2014年は77.1%、2017年は75.2%で、今回の82.8%が最も高かった。しかしながら、84.2%の人は東京大会以前にパラリンピックに関する経験(直接・間接観戦、パラスポーツ体験イベントへの参加等)をしたことがないことも明らかとなった。

 東京大会の評価を行う際に、コロナ禍が影響した人は半数近くに上り、大会前は32.6%の人が開催に反対し、24.9%が賛成だったが、大会後は、56.7%の人が「障害のある人にとって開催されてよかった」と評価した。

 大会期間中の観戦状況は、「テレビでパラリンピックのニュースを視聴した人」が67.8%、「テレビで競技を観戦した人」が48.2%となり、観戦率が高かった上位3競技は、「車いすバスケットボール(23.5%)」「車いすテニス(23.1%)」「水泳(22.1%)」だった。ただし、観戦・視聴したと回答した人に最も印象に残ったのは「開会式(33.4%)」だった。また、45.5%の人は競技(開閉会式を含む)を全く観戦していなかったことも分かった。

 今後のパラ大会に関しては、2割前後の人がテレビやインターネット等で間接観戦をしたいと回答した。

 次に、各設問と基本属性の三つ(性別・年代・障がいの有無)とのクロス集計結果を報告する。性別による傾向に着目すると、スポーツ消費行動は男性の方が高いが、「パラリンピック」の認知度や東京パラ大会の観戦率や評価は女性の方が高かった。

 年代別の傾向に着目すると、相対的に、「パラリンピック」の認知度や東京パラ大会の観戦率や評価は50代、60代が高く、今後、「パラスポーツ体験会への参加」「パラスポーツに関連したボランティア活動」「障がいに関する学習」などを希望する割合は20代が高かった。

 障がいの有無に着目すると、障がい当事者および家族・友人に障がい当事者がいる方が、パラリンピックのことをより知っており、今後のパラリンピックに関連した行動意図も強い傾向にあった。ただし、障がい当事者の場合と、家族・友人に障がい当事者がいる場合とでは東京パラ大会に対する評価に多少異なる傾向がみられた。具体的には、「(東京パラ大会の開催は)障がいのある人にとってよかった」という項目について、障がい当事者の方が評価が低い結果となった。

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中村真博研究員

 (遠藤)設問同士をかけたクロス集計の結果からは、次の四つの傾向が明らかになった。①大会の評価をする際にコロナ禍が影響した人は、大会開催に対し否定的な評価を下す。②日常的にスポーツに深くかかわっている人は、東京パラ大会期間中も競技の観戦や情報収集などを積極的に行っている。③日常的にスポーツに深く関わっている人また、実際に東京パラ大会を観戦した人は、東京パラ大会に対してポジティブな評価をする。④東京大会を高く評価した人は、今後のパラリンピックやパラスポーツに関する行動意図も強い。

 これらの結果から、日常的にスポーツ、パラスポーツに関わりを持ち、また実際にパラリンピックを観戦した人は、大会自体および大会を通じた社会的影響にポジティブな評価をする好循環が生まれる可能性が認められた。その反面、日常的にスポーツに触れる機会がない人、あるいは関心がない人は、パラリンピック自体を観戦しないことから、パラリンピックに対し肯定的な評価をあまりしない傾向にある。今後は、スポーツ・パラスポーツという枠に留まらず、例えば昨今議論されているSDGsや持続可能な開発のための教育など、パラリンピックやパラスポーツに関する経験や関心が少ない層を巻き込むきっかけとして、様々な概念と共に情報を発信するのも一案かと考える。

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遠藤華英研究員

 (小堀)東京パラ大会のレガシーを検証するにあたり、大会への賛否と共生社会に対する考え方の視点から分析を試みた。開催自体に反対でも、大会への評価が高かった層は共生社会への受容度も高い傾向にあり、パラ大会への評価と共生社会への受容度に強い関連があることが分かった。また、大会開催に対して中立の立場を維持する層は共生社会への受容度が低い傾向もみられた。これらの因果関係を特定するためにはより精緻な分析が必要となるが、少なくともパラ大会への評価が、障がい者だけではなく、性的マイノリティ、人種の異なる人をはじめとする様々な人々との共生社会への受容度と正の関係にあることが確認できた。

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小堀真准教授

 (遠藤・中村)自由回答記述の共起ネットワーク分析からは、新型コロナウイルス感染症の拡大が大会開催への反応を生んでいたこと、日本人選手の活躍を目にした人に感動や共感を呼び起こしたこと、初めて大会を目にした人に驚きを与えたことなどが窺えた。性別に着目すると、パラリンピックに対して男性は「競技スポーツ」としての印象、女性は「障がいのある人が頑張るスポーツ」という福祉的印象を持った傾向が示唆された。

 

 ワークショップ参加者からは、東京大会のレガシーを検証するためにはこうした調査が継続的に行われることが重要であるとの意見も寄せられた。

 東京2020パラリンピック競技大会後における国内外一般社会でのパラリンピックに関する認知と関心 第3回調査結果報告